~8月~

暑さ厳しい真夏の高知。

細い山道を、ゆっくりと歩いていく二人。

バス停のあった国道から離れて、一時間ほどが過ぎようとしていた。

日頃の生活では味わえない緑の風。

過ぎ行く夏を惜しむ様な蝉の声。

彼女は、そんな風景の一つ一つを、心にしみじみ感じ取っていた。


「これがあの楠《クスノキ》ね。へ~確かに立派だわ」

坂道を登りきったところで、一息ついた。

「ラブ、まだなのかぁ?暑くて死にそうだぜ」

「T2、少し運動不足なんじゃない?」

彼の肉体にとって、運動は必要ないのだが、暑さには弱かった。

「こんなことなら、やっぱりマシンでくれば良かったぜ、全く」

「まぁまぁ、たまにはこうして、清らかな空気を胸いっぱいに吸いながら、歩いてみるのもいいものよ」

「ラブ、おまえこそ、本当にもう大丈夫なのか?」

薄いベージュのショートパンツから伸びる、白く細い脚。

左の太ももと右の足首、そしてTシャツの腕にも1ヶ所、痛々しく包帯が巻かれていた。

「心配してくれるの?大丈夫よん。んじゃ、帰りはおんぶしてもらっちゃおうかな」


ヘブンとの最終決戦の末、身も心もボロボロになったラブ。

まだ完全ではないが、動ける様になった彼女は、じっとしてはいられなかったのである。


「ほら、着いたわ」


楠を曲がった正面に、優しいたたずまいの小さな家があった。

「鍵はポストの裏に…と、あったわ!ほんとにあった」

鍵を握りしめ、目を閉じるラブ。

いくつもの想いが、彼女の胸に押し寄せる。


(帰って来たよ)


(メイ)



ラブは、永遠の絆が刻まれた家へと、ゆっくり鍵を差し込んだ…。