~数日後~


紗夜のBirthday。

正明は、買ってきたケーキにロウソクを立てていく。

それを嬉しそうに見つめる紗夜。

『あれ?』

『どうしたのパパ?』

『一本足りないんだよ。困ったなこりゃ。』

紗夜の顔が少し沈んだのを横目で見る正明。

『お~い智代、ロウソクなかったか?』

奥の部屋にいる妻に声を書けた。


『そんなものありません。』

冷たい声が静かに響く…。



正明と智代は、二年前に病気で娘を亡くしていた。

落胆した妻の寂しさを紛らわす為、正明は『ビート』を飼うことにしたのである。

その為に、ペットが飼えるこのマンションへ引っ越しもした。

娘の様にかわいがった愛犬を亡くした智代は、葬儀の日から…変わった。


元々気に入らなかった紗夜には、よりキツくあたるようになっていたのである。


紗夜は、二人の子ではなかった。


正明の仕事は警察官である。

半年前、警部である正明は、ある一家惨殺事件に関わった。

どこにでもある様な普通の家で、父親、母親、長男が殺された事件。

父親と母親は頭部が無くなるほど潰され、長男に至っては、11階の窓を突き破って投げ捨てられていた。


そんな中、たった一人生き残ったのが、紗夜である。

怯えきった少女。

少女は事件の記憶も、家族の記憶をも失っていた。

正気になって、初めて見たのが、正明の笑顔であった。

丁度娘と同じ歳の少女を、正明は放って置けず、身寄りのない紗夜を、引き取ることにしたのである。



妻もきっと受け入れてくれると思っていた。

が、智代は紗夜を気味悪がり、娘として可愛がることはなかったのである。


正明が仕事でいない間、智代は紗夜にキツくあたり、手をあげることも度々であった。


それでも紗夜は、智代を愛している大好きな『パパ』のために、そのことは一言も言わなかったのである。