紗夜の意識に、何かが生まれた。


(さ・・・や。)

撃たれた肩を押さえ、ゆっくりと上体を起こす。

(紗夜。)

(パ・・・パ?)

紗夜の意識の中に、姫城 正明の優しい顔が浮かんだ。

(目を…開けるんだ。)

(パパ…いるの?)

(もう、いいんだよ。)


『メキッ!』

『グアァァ!!』

少女の手は止まらない。



(ごめんな、紗夜。お前を守るために、パパはお前の目をふさいだんだ。さぁ、目を開けて。)

(パパ・・・)


溢れ出した涙が、紗夜の頬を伝って落ちる。


(目を開けて、あの子を止めるんだ。)


紗夜の心が、ゆっくり開いていく。

その瞳に、少しずつ光が差し始めた。


『・・・たのむ・・・息子をたすけて・・・くれ・・・』

紗夜の目に、傷ついた老人が伸ばした手が見えた。

(見える。パパ、見えるわ。)

(止めるんだ、紗夜。)

紗夜が、少女を見た。


少女の力が止まり、紗夜を振り向く。

『やめなさい。もう、殺しちゃだめ!』

少女の顔に困惑の表情が浮かぶ。

『に・く・い』

『私も憎いわ!殺してやりたいくらい憎い!!』

立ち上がる紗夜。

涙が散る。

『でも、殺しちゃだめなの。殺しても、パパは戻らない・・・殺しても、お母さんやお父さんやお兄ちゃんは帰ってこないのっ!!』


力が緩んだのを感じ、竜馬が逃げようともがいた。

『ヂャヤアア!』

『ガハッ!』

少女の手に再び力が込められる。


紗夜が、転がった拳銃へと走る。


『ゆ・る・さ・な・い』

『ゆ・る・さ・な・い』

『ゆ・る・さ・な・い』

繰り返しながら、少女の力が増す。

『やめなさい!!』

少女が振り向く。


左手に拳銃を握って立つ紗夜。

その銃口を、ゆっくり、傷跡だらけの右の手のひらに当てる。


『もう終わりよ。』

悲しい目で少女を見つめ、くちびるを噛みしめた。

『や・め・ろ!』

少女の目が怯える。

『ごめんなさい。』

引き金に力を込める。

『バンッ!!』

右手を撃ちぬいた。

『ギギャャァァァー!』

恐ろしくも悲しい悲鳴が響き渡る。

『あぁ・・・』

膝から崩れ落ちる紗夜。

ゆっくり顔を上げ、少女を見る。

目と目が合った。

少女の目が、少しずつ人の色を取り戻していく。

そして・・・悲しく、優しく・・・笑った。

その目を見届け、紗夜の意識は静かな闇へと落ちていった。


遠くから近づくサイレンの音。


破れた窓から、ひとひらの雪が、紗夜の頬に落ちた。