「あたしなら薫先輩を毎日笑顔に出来ますし、幸せにだって出来ます」
「すごい自信じゃん」
「だって好きだから⋯」
そう言った直後、柑奈の頬を濡らしたのは大粒の涙。
いつもニコニコ笑ってた女が初めて見せた涙。
それをみた瞬間、心臓がドクンと跳ねた。
流れた涙に手を伸ばしたくなった。
今まで散々泣かれた事はあったはずなのに、どうしてかコイツの涙だけはその悲しみが伝染してきたみたいに俺まで胸が苦しくなった────気がした。
馬鹿みたいに笑ってたくせにこんな顔して泣くんだって意味のわかんない感情に昂って、今すぐいつもの笑顔に戻ってくんないかなって思った。
それと同時に経験した事のないゾクゾクとした感覚が体の奥の方でして。
もっと顔をぐちゃぐちゃにして泣いた顔が見たい─────なんて。
初めて人に触れたいと思った。
その頬を撫でて涙を拭って、濡れたまつ毛が瞬きの度に揺れるのを見ていたいって、初めて思った。
ゆっくりと伸ばした手。
その指先は彼女の頬に届く前に動きを止めた。
正確には、止められた。
「ぜーっったい!!」
突如叫びながら顔を上げた柑奈の表情はさっきまでの悲しみに覆われた弱々しいものではなく、何かを吹っ切った様な、清々しい程に真っ直ぐな瞳を携えた笑顔で。
俺は思わず、中途半端に伸ばした手を彼女に気付かれない様に下ろした。
「あたし、諦めませんから!」
「⋯は?」
「絶対、絶対、薫先輩を落としてみせますから!そしてもう、あたしの事大好きにさせちゃいますから!」
「⋯」
「いつか絶対、柑奈愛してるよって言わせてみせます!」
どっからその自信が出てくんの?唖然なんだけど。
だけど不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
普通にキモイしウザいししつこいけど、気付けば笑った柑奈に安心している自分がいた。