こういうしつこい女を遠ざけるには、やはり盾となるものが必要で。
その時ちょうど告白してきた奴と付き合えばあっさりと女は姿を見せなくなった。
しつこく付け回される事もなければ興味のない話を聞かされる事もなくなったはずなのに、どこか日常に物足りなさを覚えたのはきっと、気の所為かあるいは一時的な気の迷い。
そう言い聞かせて彼女と呼ばれる存在と過ごしては別れ、別れては付き合ってを繰り返していた時だった。
聞いたこともないくらいの弱々しい声で今にも泣き出しそうに眉を八の字にさげた柑奈⋯とかいう女が再び俺の前に現れたのは。
「⋯先輩はどうして色んな人と付き合うんですか?」
「は?」
「誰でもいい、とか?ならあたしだって別に⋯」
「⋯」
「⋯あたしなら、薫先輩を幸せにする自信あります⋯」
耳をすませばなければ聞こえない程の小さな声で支離滅裂な事を口にする柑奈の瞳には今にも零れ落ちそうな涙が浮かんでいた。
「誰でもいいならあたしでもって思ったんです。だけどあたしは本気で薫先輩のことが好きだから⋯」
つまり、真剣に付き合って欲しいって?
そんなのお前次第でしょ。
お前が俺の性格に耐えられれば続くし、お前が俺を本気にさせられたら真剣に付き合うよって、この時の俺は傲慢な事ばかり考えていたと思う。
きっとこの時の自分を思い出して羞恥心に駆られるなんて想像すらせず。