三年に進級した直後にストーカーじみたしつこさで俺の後を追いかけ回す女は、どうやら入学したばかりの新入生らしい。
「薫先輩っ!おはようございます!」
「⋯」
「あたし今日はなんと、ポニーテールにしてみたんですけどどうですか?」
「⋯」
「普段下ろしてる髪を結ぶと男子はキュンとする!って雑誌に書いてあって⋯、それで、」
ベラベラとどうでもいい事を話す女は校門前で俺を待ち伏せしては下駄箱まで引っ付いてくる。酷い時には休み時間の度に三年の教室までやって来ては聞いてもない事を喋る。
自分は何が好きとか、昨日食べた夕飯の話とか。
何が楽しいのかニコニコ馬鹿面を晒す女は、どうやら入学式で俺に一目惚れをしたらしい。
頭おかしいんじゃないのって思った。
よく知りもしないくせに好きとか普通ありえないでしょ。
──────そんなありえない女は、やっぱり俺の常識外の事ばかり起こす。
「薫先輩っ!これ!」
「⋯」
「家庭科の授業で作ったんです!心を込めて作りました!もちろん愛情もたっぷり!」
「⋯」
「受け取ってください!」
若干歪な形をしたカップケーキを無理やり押し付けてきた女はふやけてんじゃないのって思うくらいに緩い表情で、頬を染めながら上目遣いをする。
その下手くそな上目遣いもきっと雑誌かなんかに書いてあったのだろう。
「いらない」
「え!そんな事言わずに!」
「人の手作りとかキモイ」
「衛生面はバッチリです」
「いらない」
「見た目は微妙ですけど味は美味しいと思いますよ?」
「お前しつこいって言われない?」
「多分あたしがしつこいのって薫先輩限定です!」
⋯何をドヤ顔で言ってんの、コイツ。
ていうか、普通にキモイしウザイ。
変な奴に好かれたなって、辟易とする。
だけど目の前の女は俺の気持ちも露知らず、カップケーキを強引に押し付けては「返品は受け付けませんので!」と足早に去っていく。
誰が食べるわけ、こんなもの。
他人の手作り?しかもよく知らない後輩の。
普通に無理。
手の中に収まったカップケーキには小さなメモ用紙が貼り付けてあって、そこには<薫先輩大好きです!柑奈>と書いてある。
「⋯⋯うざ、」
真っ直ぐ過ぎるその言葉に目眩がして傍にあったゴミ箱にカップケーキとメモ用紙を捨てた。