傷つけるつもりなんてなかった。

泣かせるつもりなんてなかった。



別れるつもりだって、なかった。




だけど、自分の気持ちが上手く伝わらないもどかしさと柑奈を傷つけている自分に対しての怒りで冷静ではいられなかった。


何で伝わらねぇんだよ、

何でそんな事言うんだよ、

ちゃんとわかれよ、

好きだと言う言葉すら信じてもらえない情けなさ。



俺のせいで大きな瞳から零れる涙。


もしかしたら、俺じゃない方がいいのかもしれない。ここで手放した方が柑奈の為なのかもしれない。

もう、元には戻れないかもしれない。


そんな不安が頭を過った────けれど、やっぱり。



俺は柑奈が大切で、柑奈も俺の事を好きで、

"別れる“なんて選択肢は二人の間には存在しないのだと、タカをくくっていた。




「っもう、別れたいっ⋯」



そう言って泣く柑奈に一瞬、頭の中が空っぽになった。


目すら見ないで、「苦しい」「嫌だ」を繰り返す柑奈はとても痛々しくて。

受け入れられるはずない。


例え柑奈が信じてくれなくても、他人から見ればどんな彼氏に見えても、俺は柑奈のことが好きで。


積み重ねてきた二年間は紛れもなく大切で。



止まらない涙を拭おうとした。

いつもくっついてくる華奢な身体を抱きしめようとした。




─────抱きしめて、どうする?



抱きしめようと伸ばしかけた腕がピタリと止まる。




抱きしめて、その後は。


どんな言葉で、どんな事を言えばいいのかわからない。

「好きだ」と伝えても、それは伝わってくれなくて。


また、酷い事を言ってしまうかもしれない。


更に、泣かせてしまうかもしれない。




実際、今柑奈は俺のせいでこんなにも泣いている。




「わかった」


そう言うしかなかった。