「その、初音って呼び方やだ…」
そもそも初音さんのことを気になりだした原因はその呼び方だった。
「薫くん、女の人のこと名前で呼んだりしないのに初音さんのことは初音って名前で呼ぶでしょ?」
「え、ああ…」
「しかも呼び捨てだし」
「…うん、」
「それ、気になっちゃうからやめてほしい…です」
さすがにここまで言うのはワガママかなと思いつつも窺うように薫くんを見れば、何故かその顔は笑っていて。
というよりも、笑いを堪えていて。
「な、なんで笑うのっ?」
わけも分からずそう言えば、薫くんは「それ勘違いだから」と肩を震わせた。
「初音っていうのは苗字」
「えっ!?」
「名前で呼んでんのなんか柑奈だけだから安心していーよ」
「っほんとにっ?」
「うん。つーか初音って名前っぽいか?」
「わ、わかんない、ただあたしがヤキモチ妬いて早とちりし過ぎたのかも…」
どうやらずーっと気になっていた名前呼びの件はあたしの勘違いだったらしく。
安心したような、拍子抜けしたような、とても気の抜けるものだった。
でも、冷静になって考えてみれば薫くんがただの大学の友達を名前で呼び捨てで呼ぶなんて可能性の薄い話だ。
「なんだあ、早く言ってくれたら良かったのに」
とへにゃりと力を抜いたあたしに、
「聞かれたことなかったから」
とクスクス笑う薫くんは「まあもう初音の話なんてする事ないだろうしどっちでもいいじゃん」とあたしの髪の毛を撫でた。
そして軽くおでこに口付けも。



