「恋をして、そして賢くあることは不可能…」
趣里の言った名言を反復しながら、その言葉を心の中に入れていく。
「まあ、名言は人それぞれの解釈があっていいものだと思うから敢えて柑奈に送るとしたら、私はこう解釈する」
「どんなの?」
「恋をして賢くいられるなんて無理なんだから、心のままにいればいいって」
「…心のままに」
「うん。賢い選択なんて要らないし出来ない。だからこそ、心が大切。賢くなんていられない。でも、賢くあることが正解でも偉いわけでもないって、こんな風に私は思う」
「…うん」
「だから心のままに、柑奈は進めばいいんだよ。心が向いている方向に歩くの」
「…」
「例えそれが賢くないとしても、それが一番良いんだよ」
ふわりと微笑んでこの言葉を送ってくれた趣里はきっと、あたしの出した答えをわかっているのだろう。
その上であたしの背中を押すこの名言をくれたのだろう。
「ありがとう…趣里」
「私の理解されない趣味もたまには役に立つでしょ?」
「変わってるなとは思ったけど、趣里のそういう所が好きだよ」
「ふふ、嬉しいな」
答えが出た今なら、好きという言葉を素直に出せる。
「それじゃあ、陸斗に返事してくるね」
「うん、いってらっしゃい」
ヒラリと上品に手を振った趣里を背に、教室を出る。
向かうのは陸斗の待っている空き教室。
趣里に背中を押されて心強い思いと、緊張とか混ざりあって指先を震えさせながら、彼のいる教室のドアに手を掛けた。



