昨日、感情的になって後悔して、このままじゃ嫌だから仲直りしようって決めて今日ここに来たのに。



苦しい、痛い、ってことから逃げたかった。

とにかく、どうにかして苦しみから解放されたくて、大きく息を吸いたくて。





「何言ってんの、柑奈」




あたしから別れたいなんて絶対に言うはずがないと思っていた薫くんの双眸が、ゆっくりと見開かれていく。





「お前が簡単に別れるとか言うなって今言ったんじゃん」

「っ」

「⋯本気で言ってんの?」




怒っているような戸惑っているような低い声に小さく頷く。

冗談で言うわけない。

でも、別れたいって気持ちと別れたくないって気持ち両方があってグラグラと揺れているのも事実。




「ならちゃんと目を見て言えよ」

「⋯っ」



触らないでって拒んだのに、遠慮なくあたしの両頬を包んで無理やり顔を上げさせた薫くんの琥珀色とかちりと瞳が合わさって息が詰まる。


目が合うとドキドキして恥ずかしかったのに今はもう、苦しくて堪らない。


その瞳が逸らされることが怖くて堪らない。

あたしのこと、面倒だって思っていたらどうしよう、初音さんの方がいいって思われてたらどうしようって、意味もなく怖くなる。




「くる、しいのっ⋯」

「⋯、」

「薫くんといても、イライラしてモヤモヤしてっ⋯ここがずっと痛いのっ⋯!」



ぎゅっと握りしめた胸元。制服がシワになるのだって気にならなかった。




「もう、ダメだよっ⋯」

「柑奈、」

「もう、いやだよっ⋯」




ポロポロと溢れる涙が頬を伝って、顔くんの手のひらを流れていく。

至近距離で見つめ合う瞳の中にはぐちゃぐちゃな顔で泣くあたしがいる。