「柑奈」
こんな時に名前を呼んで涙を拭おうとする薫くんは卑怯だ。
あたしの手を掴んで顔から離した薫くんが濡れた頬を拭おうと手を伸ばしてくる。
本当は嬉しかった。
嬉しかったけど、触って欲しくなかった。
好きって気持ちを軽いって言った薫くんの声が頭の中で響いてスッと冷たい何かが心を覆う。
それはとてもひんやりしていて黒くて分厚くてドロドロしていて、簡単にやわらかい心を覆い尽くしてしまう。
薫くんのこと好きで好きで堪らない。
大好きだって気持ちは今もある。
でも、冷たくて黒い何かに覆われた心が「もうダメだ」って叫んでいる。
薫くんの好きを信じられないあたしと、
あたしの好きを軽いものだって疑う薫くん。
その何かに覆われた心は痛くて苦しくて堪らないの。
もう、ダメだって、苦しいよって、泣いているの。
だから、だから──────。
「っもう別れたいっ⋯」
それがあたしの意思なのかそうでないのかも苦しすぎてわからない。



