パシン、と乾いた音が響いた瞬間、
「きゃっ!⋯いったぁい、⋯薫!薫っ!」
わざとらしく、なんて悪意があるかもしれないけれど本当にわざとらしく高い声を出した初音さんが薫くんの部屋のドアを叩く。
そしてカチャリと音がして出てきた薫くんに縋り付くようにしてあたしを睨んだ。
「薫!この子私のこと叩いたんだけど!」
「は?」
「ほら見てここ!」
薫くんの服をきゅっと掴みながら、あたしが叩いてしまった頬を見せる初音さんに薫くんが腰を屈めて僅かに赤くなった頬を見た。
「⋯」
何も言わない薫くんにあたしはどんな風に思われているんだろうと怖くなる。
「痛いよ、薫⋯、それなのに柑奈ちゃん謝ることもしないよ!?」
「⋯」
「ねぇ、彼氏ならちゃんと謝るように言ってよ!」
確かにあたしは初音さんを叩いてしまった。
それは何があってもいけないことだし、どんな理由があっても人に手を上げてはいけない。
ちゃんと謝らなくてならない。
そう、わかっているのに。目の前で薫くんには縋りつきながら涙目をして見せて、あたしには睨みを効かせている初音さんに「ごめんなさい」が出てこない。
あたしは悪くない。
悪くない、よね?
何も言えずに黙ったままのあたしと、痛いと頬を抑える初音さんを交互に見ながらゆっくりと薫くんが口を開く。
「俺ドアの向こうで聞いてたけどどう考えたって初音が煽ってただろ」
「っな、!」
「叩いたことは俺が謝るし、湿布もあるからそれ今持ってくるから」
「っちょっと薫、そういうことじゃなくて」
「だからお前はちょっと帰って」
そう言った薫くんはすぐに湿布一袋を初音さんに渡して、その背中を押した。
「ちょっと薫!」
「さすがにお前いい加減ウザイから」
「⋯っ!」
「早く帰れよ」
「っ明日ちゃんと話聞いてもらうからね!?私が悪いみたいな言い方だけど私にだって言い分はあるんだか」
「わかったから早く帰れよ、初音」
「っ、わかったよ、今日のところは帰るよ!」
そうしてまだ怒りの収まっていない初音さんを無理やり追い返した薫くんにほんの少しだけホッとする。
叩いてしまった時も、あたしを責めるような事を言わなかった薫くんに、味方をしてくれた薫くんにほんの少しだけ、安心した。
だけどそんな不安を感じることこそが、今のあたし達の溝を浮き彫りにしているとも思った。



