端に転がっていたリップを拾い上げて、玄関の方へと向かう。
「いい、俺が」
「あたしが返す」
あたしの手からリップを取ろうとする薫くんを避けて、ドアを開ける。そしてまだ納得していない様子の薫くんが何かを言う前に急いでドアを閉めた。
「あ、それそれ!ありがとう柑奈ちゃん!」
壁により掛かっていた初音さんが壁から背を離し、向き合うかたちになる。
笑いながらも一切瞳の奥が笑っていない初音さん。見た目だけの第一印象は明るくて元気そうな女の人だと思ったけれど。
こんなのただの意地悪な人だ。
「どこに落ちてた~?」
なんて、白々しい。
わざと落としたくせに。
でも今は初音さんに忘れ物をしたことを責めるつもりはない。
それがわざとだったとしても、だ。
今あたしが言いたいことは────。
「もう、必要以上に薫くんに構わないでくれませんか?」
気の弱いあたしだって、言う時は言う。
このままじゃ薫くんのことまで本気で嫌になってしまいそうたから。



