あたしを視界に入れても悪びれる様子もない初音さんは完全にあたしを敵と見てるし、薫くんを奪いにきてる。つまり、あたしたちを引き裂こうとしている。
それに素直に従うつもりはない。
毛頭ない。けれど、こんな人が傍にいる薫くんとこれからやっていける気もしない。
「初音、」
「実は昨日忘れ物しちゃって、電話したのに出ないんだもん!だから今日大学で言おうって思ってたけど忘れちゃって⋯帰り道に思い出したから取りに来たの」
「忘れ物?」
「うん、リップ忘れちゃって。ほら、色つきのものだし、柑奈ちゃんが勘違いしちゃたら可哀想だし、私も勘違いされて困るからさぁ」
「⋯今持ってくるから」
そう言って初音さんをそのままに、あたしを部屋に入れた薫くん。
イラついた様な焦った様な表情に不安になる。
なんで何も言い返してくれないの。
今、あたしすごい嫌なこと言われたんだよ?
今、すごく嫌な気持ちになってるんだよ?
なのになんで律儀に忘れ物なんて探してんの。
不安だ、不安だ、不安だ。
そんなことないってわかってるのにもしかしたら、って気持ちが少しずつ募っていく。
「これじゃないの?」
部屋の隅に転がったピンク色のスティック。
普通、リップが部屋の隅に転がるなんてありえない。わざと、忘れていったんだとしか思えない。
あたしに対してじゃないと思いたいけれど、小さく舌打ちをした薫くんが「返してくる」とそれを拾う。
「待って、薫くん」
そんなリップ触りたくない。でも薫くんが触るのはもっと嫌。
「それ、あたしが返してくる」



