薫くんの手をこんな風に振り払ったことなんて。
触れるのを拒んだことなんて。
今までもこれからも無いと思っていた。
乾いた音が二人しかいないアパート下に響く。
きっと、薫くんもまさか自分の手が振り払われるとは思っていなかったんだろう。
驚いた様に長い睫毛が上下した。
「柑奈?」
困ったような、戸惑った表情を浮かべる薫くんはどこまでもずるい。
怒ったり、困ったり、ぜんぶあたしが悪いみたいな顔するから、卑怯だ。
「薫くん、あたしのこと好き?」
何度もしてきた質問。
決まって薫くんは欲しい答えをくれない。
「今それ関係あんの?」
「⋯っ」
こんな時ですら、望んでいる言葉を与えてくれない。



