それが薫くんからのキスだと頭が理解するより前に、少し冷たくて柔らかい唇があたしから離れた。
「え⋯、」
「夕飯とか作ってあげるからもう少し寝てな」
「⋯っ、薫くん⋯!」
呆然とするあたしのクシャリと頭を撫で、部屋を出て行こうとする薫くんに、ハッとして慌てて袖を掴む。
「か、薫くん⋯?」
「なに?」
「いま、今⋯!⋯キス⋯」
「キスがなに?」
目を大きくさせるあたしとは反対に目を細める薫くんは、「あのさぁ」とあたしを見つめた。
「キスしたかったんでしょ」
「へ⋯」
「満足した?」
僅かに首を傾げた薫くんに、満足、なんて。全然足りないよ、と言いたくなる。
でも、これ以上ないくらいに嬉しくてドキドキして幸せだ。
「風邪は⋯?移っちゃうよ⋯?」
だけどそれだけは心配で。
眉を八の字にしたあたしに薫くんははぁ、と小さく息を吐いた。



