頬に伸びた手が涙の跡を優しく辿る。
「わかった?柑奈」
「⋯」
「返事は?」
「⋯」
その指先が、まるで愛しい宝物を触るときみたいに繊細で、なぜか泣きたくなった。
「話きいてんの?」
「⋯聞いてるよ」
「じゃあ、返事は」
「⋯薫くんの前では?」
「は?」
「薫くんの前なら、泣いてもいいの?」
悲しいときも、寂しいときも、嬉しいときも。
薫くんの前でなら泣いてもいいの?薫くん。
じっと琥珀色の瞳を見つめていれば、二重瞼の目がゆっくりと細められていく。
そして嬉しそうに口角を上げた薫くんに、胸が鷲掴みにされた。



