それからあたし達の会話はなくて、冷たい夜風が髪を揺らす度に、その大きな手に目線を持っていく。
だけど、薫くんの方から手を差し出してくれることは無い。
それはいつもの事だけど。
「着いた」
「⋯あ、」
結局、何も会話もなく、手を繋ぐこともなく、家に着いてしまった。
「⋯送ってくれて、ありがとう」
私はアルバイトをした事がないから大変さを完全に理解することは出来ないのかもしれないけど、本当ならバイトが終わりすぐに家に帰れるのにわざわざあたしを送ってくれた薫くん。
疲れているはずなのに、遠回りをしてまで。
ぎゅっ、と締め付けられる胸は嬉しさからなのか申し訳なさからなのか区別がつかない。
「薫くん⋯、あの、今日はごめんね」
すっかり弱気になってしまったあたしは、俯いたまま薫くんの顔を見れなかった。
初音さんに対してガツンと私が彼女です!と言ってやろうと思っていたくせに、もし薫くん狙いの人がいたら牽制してやろうと思っていたくせに、あたしは自分が思っていたよりも小心者の内弁慶らしい。



