夜の世界に紛れる薫くんの黒髪が、冷たい風に揺れる。
今日は特に冷える夜だと感じるのは、心のせいだろうか。
「⋯」
「⋯、」
足を止めた薫くんはあたしを待っていてくれたらしい。隣に並んだあたしを確認して、再び歩き出した。今度はさっきよりもペースを遅くして。
それだけで、たったそれだけの事で喜んでしまうあたしは、きっと、薫くんに溺れてしまっているんだろう。
傍から見たら、簡単な女だと思われてしまうのかもしれない。
だけど、本当に。それだけの事でも嬉しいんだ。
「⋯薫くん」
「⋯なに」
「アルバイト、お疲れ様でした」
モヤモヤして嫉妬していたせいで大事なことを言い忘れていた。
「すごく、かっこよかった⋯」
初めて見た薫くんの働く姿。
いつもとは違う薫くんに、更に好きが増した。



