ワハハ、ギャハハ。男も女も酒に酔って正常な判断ができなくなっている。頭に響くほど騒がしい声や、床を踏みしめて近づいてくる足音が、救いのないような状況を生み出していて。徐々に近づいてくる顔に、囃し立てて煽る声に、混ぜてと言った同級生の俺を押さえつける手に、冷たい冷たいとへらへらしながら触れてくるその手に、神崎以外の誰か、暴走する同級生に襲われかけていることに、力だけでなく数も負けているために全く抵抗できない事実に、瞬く間に冷静さを失いパニックになってしまった。神崎。神崎。神崎。助けてほしい。助けて。神崎。神崎は。

 混乱や動揺で小刻みに震えてしまう瞳で神崎を見やると、彼は冷めた眼差しで俺を、いや、酒に犯されている同級生を見下ろしていた。彼は俺の視線に気づくことなく濡れた服をそのままに立ち上がると、俺との距離を縮める同級生の無防備な脇腹を蹴り飛ばした。遠慮のない堂々とした暴力に目を瞬かせる周りのリアクションを他所に、秋月、来て、と神崎は突然の治安の悪さに困惑気味になっている俺を起き上がらせ手を引いた。大量の酒が入った同級生を、つい先程自分が蹴った同級生を完全に無視して。引っ張られるようにして立ち上がった俺を導き、空いた片手で自分と俺の荷物を持ち去りながら、神崎は俺を連れ出した。俺の手を掴む神崎の手は、冷え切った俺の皮膚を、ゆっくりと、丁寧に、時間をかけて、温めてくれているかのようだった。