冷え切った皮膚でも抱いといて

 言葉は返さなかった。うん。いいよ。それらの肯定を示す単語も言わなかった。その代わり、自ら神崎の手を握って応える。彼の手は温かい。温かいのに、微かに震えていた。昨日、手を繋いで歩き、何かを言い淀んでいた時と似たような感情の揺れ方。緊張から、不安から、恐怖から。それでも、俺の手が冷たくて震えているのかとも思ったが、どう考えても、どこをどう切り取っても、俺の低体温による震えではないのは明らかで。切なそうで、悲しそうで、苦しそうで。神崎は、何かを逡巡している。

「……温まった?」

 また、言いたそうにしている言葉を呑み込んで、神崎は遠慮がちに、誤魔化すように、そう尋ねてきた。声色は柔らかい。優しい。でも、手は、震えている。そこから切なさや苦しさが滲み出ていた。温まった、ありがとう。貸してくれた服のことも含めて素直にお礼を伝えると、神崎はこくりと首肯して、反応を示した。しおらしい態度に距離感を掴めなくなる。言葉を慎重に選ぶ神崎に、言いたいことあるなら言えよ、と催促して焦らすこともできず、俺は彼の考えが纏まるまで、纏まって口にできるまで、何も聞かないでおこうと思った。俺もまだ、覚悟が決まっていないから。