浴室を貸してもらった俺は、そこに設置されている鏡に映る自分の体を見て初めて気づいた。首筋、鎖骨、胸板を中心に、赤い斑点が浮かび上がっていることに。体を重ねた際、ありとあらゆる部位に唇を押し付けられた覚えはあるが、これほどまでに跡が残っているとは思わなかった。

 でも、このマークだらけの体が、昨夜のことは実際に起こったことなのだと証明しているかのようで。嬉しい反面、理性を失くした情けない姿を晒してしまったことにかなりの時間差で恥ずかしさを覚えた。男が女みたいに泣いて善がって。神崎の目に、自分に抱かれて気持ちよくなる俺はどう映っていたのだろう。

 考えても仕方のないことを考えて。胸のもやもやを全部洗い流すようにシャワーを頭から被った。つけられた印のようなものを意識したら、神崎の唇が触れた感覚が鮮明に蘇ってくる。欲求不満の表れのような。独占欲の表れのような。我慢させていたのかもしれないと思ったし、俺も我慢していた節があった。感情に呑まれ、神崎に触れてほしくて、抱いてと誘ったのは俺で。自分が抱かれる側であることに何の疑問も持たなかったが、そうか、俺、男に抱かれたんだ。