夢を見た。悪夢だった。好きの言葉はないまま体を重ね、それでも深く愛され、幸せな眠りに堕ちたはずなのに、その夢は俺を恐怖のどん底へと引き摺り込んだ。現実を見ろとでも言わんばかりに。幸せはそう長くは続かないとでも言わんばかりに。運命から目を背ける俺に、何かを訴えかけるような、良い意味でも悪い意味でも背中を押すような、そんな、夢を、見た。

 前方を歩く神崎の背中を、夢の中の俺は追いかけていた。どういう状況なのか、どういう流れで彼を追いかけているのか。それは定かではない。ただ、神崎の後を追っている場面が、微妙に靄のかかった夢として浮かび上がっているのだ。明晰夢。夢の中の俺は、これが夢だと自覚していた。感情もあった。悲しい。切ない。苦しい。辛い。

 隣に並ぶこともなく、神崎が振り返ることもなく。夢なのに、置いてけぼりにされたくなくて、神崎から離れたくなくて、永遠の別れのような危機感に、焦燥感に、頭が混乱していた。それでも足は動き、神崎を追い求めた。神崎、と声を出したつもりでも、言葉にはならない。吐き出せない感情が胸の中で燻り、不快感を覚えた。喋れないことがストレス。神崎に追いつけないことがストレス。好きだと叫べないことがストレス。この夢は、ストレスでしかなかった。