もう大人なのに、恋すらまともにできない。アイスが邪魔。障害。ジュースが邪魔。障害。特殊体質なんてものがなければ、もっと息がしやすいのに。それなのに、どうして俺は、アイスとして生まれてきてしまったのだろう。好きな人と結ばれたら、相手の体質によっては死んでしまうなんて。あんまりだ。

 ぐっと奥歯を噛む。押し寄せる波のように徐々に迫り来る苛立ちにも似た感情が、俺を自暴自棄にさせた。体温が高ければアイスではないというのなら、作為的にでも体を熱くさせればいい。そんな馬鹿みたいな理屈を捏ね始め、現実逃避。俺は一番近くにあった酎ハイを引っ掴みプルタブを引き上げて飲み口を開けると、そのまま酒に頼るように、がっつくように、一気に体に流し込んだ。

 着替え終えた神崎が戻って来たことに気づいても、俺は飲むのをやめなかった。必死だった。必死で求めていた。アイスであることは明らかなのに、それは何をしても覆せないのに、自分はアイスじゃないと思えるような事象が欲しくて。意味なんてないことくらい分かっていても、抱いた夢を意地でも現実にしたい衝動が抑えられない。後で虚しくなるだけなのに。後悔するだけなのに。