そんなの普通なら身代わりになんてなれない。

だって睦月は男の子だ。

女の子の身代わりになったところで、すぐ見破られてしまうはずだ。


───…あ、そういえばさっちゃん、出会ったときに言ってたっけ。


弟はいつも女の子みたいな顔しててナメられてたって。



「僕はそれを信じて、でも必ず助けるつもりで睦月を置いて逃げた。
兄ちゃんとして…僕は一番やっちゃ駄目なことをしたんだ…、」



さっちゃん、さっちゃん。

そんなに強く抱きしめなくても私はどこにも行かないよ。

ここにいるよ、ここしか私の居場所はないんだよ。



「でも…、女の子をおぶって逃げてるときに、本当はもう分かってた…」


「…え、」


「無理だって思った。もう殺されてるって、…イヤモニが砂嵐になって、最後聞いた声は睦月の叫び声で、
僕は怖くなって───…逃げたんだよ」



ぜんぶのものから遠ざかるように。

戻ったところで睦月はもう駄目だって想像できてたから、そのまま自分も殺されると思ったんだろう。


当時のさっちゃんは。



「僕は選択を…まちがえたんだ…。侑李が正しかった、侑李の方が僕よりずっと兄ちゃんだった…、
侑李はずっと街のお助けマンとして生きることを望んでたのに───…最初にそれを裏切ったのは、僕なんだ」


「さっちゃん…、」


「それから侑李は“藪島組のα9”に変わっちゃって、僕は…またお助けマンとして活動してれば、
睦月も侑李も帰って来るんじゃないかって……いつか戻って来てくれるんじゃないかって、」