「家、借金でもあんの?」
「っえ、いや、そういうわけじゃないです。それに、とりわけ貧乏ってわけでも、実はなくて」
「金に困ってるわけじゃないが、今より贅沢な暮らしをするために玉の輿に乗りたいと」
しまった、と思う。
正直に喋りすぎた。
この学校に通う理由なんてテキトウに誤魔化すことだってできたのに、この人に見つめられたら考えるより先に言葉が出てきてしまう。
“俺の目を、こんなに長い間見続けられる奴って滅多にいないんだけど……──”
ここで半分、納得できた。
捉えられた瞬間、底の見えない漆黒に呑まれる。
なんにも映していないように見えるのに、なんでも見透かされているような気がする。
嘘は通用しないと、本能的にわからせるチカラがある。
……それでもわたしは、目を逸らせない。
ぞっとするくらい怖い、けど、同じくらい美しいとも思うから。
深い漆黒は底がないぶん澄んでも見える。
光を宿さない昏い瞳。
──否。
光さえ拒む、孤高の美しさを持つ瞳。



