この人が、京静日……。
相対する人物をまじまじと見つめてしまう。
いや語弊がある。
正しくは、まじまじと見つめるしか道がなかった。
彼の纏う異様な静けさに呑まれて、体の自由が利かなくなってしまったから。
──それと。
“この世のものとは思えないくらい整った容姿をしている。”
“悪魔みたいに冷血な人。“
脳裏をよぎったのは、彼にまつわる噂。
噂がひとり歩きをしてるわけじゃなかった。
龍泉閣の皇帝である京静日という人はたしかに存在していて、今ここに立っている。
さらりと流れる艶やかな黒髪は雪のような白肌にとても映えて、寸分の狂いも見当たらない形のいい目、鼻、唇、そして輪郭。
すべてが、たしかに、この世のものとは思えないくらい美しかった。
悪魔みたいに冷血かどうかはさておき、悪魔みたいに美しかった。
生まれて初めて誰かに対して「気高い」と思った。
おかしいハナシ、だけど大真面目なハナシ。
“京静日”から目を逸らすという行為が、この世で一番無礼な行いに思えたから。



