そこまで聞いたとき、本能的にここにいてはいけないと察して、足を引いた。
だけど、緊張で周囲への注意がおろそかになってたせいで──ガチャン!
雑巾掛けに、足を引っ掛けて。
雑巾掛けが、倒れて。
さらに、その倒れた雑巾掛けが、隣にあったバケツにぶつかって……。
ガシャ……ガラン、ガラン……ゴトッ。
一度とならず、二度、三度、大きな音を響かせてしまった。
さあ……っと血の気が引いていく。
顔が青ざめていくのがわかった。
さっき、朱雀院様に諭されたSクラスの女の子たちみたい。
どっ、どうしよう……。
逃げる、以外の選択肢はないのに、足が張り付いたみたいに動かなかなくて。
──“お姉ちゃんて鈍くさいよね、何しても上手くいかなさそう。誰に似たのかな、可哀想だね”
嫌な思い出までもが頭を支配して。
「──ねえ、そこの女」
踊り場から姿を現した相手と、視線が交わった瞬間に、目頭が熱くなる予兆もなく。
ぽたりと、乾いた涙が落っこちた。



