婚約の話を断ったばかりだから、言いようのない気まずさに襲われる。

でも相手はそんなことつゆ知らず。



「宮名さん、よかったら、今から一緒にお茶会でもどうかな?」

「へっ? わ、わたしは……」

「決まりだね、さっ、行こ!」

「う、あ、あの……」



ふたりに強い力で両脇を掴まれて、空き教室から引きずり出されてしまった。

ぐいぐい、ぐいぐい、連れていかれること30秒ほど。

ふたりが足を止めたのは「社会科準備室」と書かれた部屋の前。



お茶会って……ここで?
と、首を傾げた矢先に、ふたりは、わたしの背中を押して中へと促した。



「準備できたら呼ぶから、宮名さんはここで待ってて?」

「そこの大きいソファ使っていいいから」



言われるままに足を踏み入れた瞬間、スーッと扉を閉められる。

直後、かちゃりと鍵の回る音がした。

中に残されたのはわたしだけ。



……え?


準備ができるまで待てというのはわかるんだけど、鍵まで閉める必要あるのかな。

放課後で人も疎らな校舎の一角に取り残されて、なんとも不安な気持ちになる。


1分、2分……と、時間の経過がいやに遅く感じる。

そしてついに、ざっくり20分くらい経ったところで、ある予測にたどりつく。


まさか、閉じ込められた……?


恐怖が足もとからせり上がってくる。

こんな時、みんなみたいにスマホを持っていれば、真凛ちゃんに助けを求めることだってできるのに。



「あの、だ、誰かいませんか……っ」


試しに声を出してみたところで、辺りはしん…としたまま。


今度は扉を叩いてみる。

「あのっ、すみません!」

虚しく消えていく声に、早くもじわりと涙がにじんだ。


このままじゃ誰にも気づいてもらえない。

家族は、わたしが帰らなくても、きっと大して気にも留めてくれない。

飛鳥井くんのお家にでもお邪魔してるんだろう、くらいにしか思われないんだろうな。


最低でも、明日の朝までここにいなくちゃいけないなんて……。

だめ、泣いても解決しないんだし。
まだきっと方法はあるはず。