──の、だけど。


非常階段についた途端、踊り場あたりから誰かのコソコソ話が聞こえてきて、はたと足を止める。


どっ、どうしよう……!

気まずさに一度は回れ右をしようとした。

それでも、留まってしまったのは。



「そんな下手な変装で学校来んな、バカかよ」


聞こえてきた声が、さっきわたしたちを助けてくれた、朱雀院様のものだとわかったから。



「いーじゃん結局バレなかったんだし」


「よくねえよ。とんでもねえ騒ぎ起こしやがって。つーか誰だよ “鈴木 要”って。病弱でずっと学校休んでたAクラスの生徒とか無理あるだろ」


「……名前聞かれて、とっさに考えたにしては巧い偽名だろ? カナドメ シズカ、カナメ スズキ」



──ばくん、と心臓が大きく反応する。

今、なんて……。



「俺を京静日だって知らない人間しかいないの、最高に気分よかったー。しばらくは鈴木要として通うのめちゃくちゃアリだな」