恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~

「暁くん?」



自分の後ろで,ドアまで閉まったと言うのに,愛深は呑気に首をかしげる。

警戒心なんて最初から0。

俺は自然に両手を離すと,愛深を招き入れるように部屋へ入った。



「足元,気を付けて」

「あっ,はい」



愛深は部屋の惨状を見ながらも,ただ踏まないようにとだけ気をつけて歩く。

俺は,うんともすんとも気にする様子1つ見せない愛深の手を引いた。

小さなテレビの前にある,緑色のソファにどさっと倒れるように座る。



「愛深も座っていいよ」

「う……暁くん! ほっぺ,傷」



高低差が出来たからだろうか,愛深は腰を下ろそうとして俺の頬に目をとめた。

忘れていた俺は,あっと思い出す。

傷1つなかった顔にある,刃物で切ったようなシュッとした傷。

今はなんともないが,清潔感のない血の塊は,愛深を驚かすのに十分だと思った。

手当て1つしてないのを見て,愛深はなんで? と問いかけるように眉を寄せる。



「消毒と,コップと,ガーゼは?」

「大丈夫だから」

「いいからどこ!」

「はぁ。コップはあそこ。あとは救急セットが多分ーーー」



俺の家なのに,愛深が主人のように怒って,足場の悪い部屋をかけていった。

だらしない,俺のために。