『時計のとこ』



そんな簡素な文。

詳しくかかなかった事で,愛深は不思議そうに辺りを見た。

その瞳が,俺を捉える。

そっと手をあげる。

ふり……と緩く動かせば,ぱっと変わる表情。

急がなくてもいいのに,愛深は駆け寄ってきた。

使い慣れた赤と緑のマフラーを押さえて,俺は1歩だけ前に出る。



「…おはよ」



最初の一言が分からなくて,俺は自分から声をかけた。

冬仕様な俺の口元が,マフラーをかする。

そこで初めて,自分が微笑んだ事に気がついた。

そこから白い息が漏れて,愛深はまた,照れたように笑った。