ーーー彼方のこと考えてる沙葉なんか、ぜんぜん可愛くねーよ
「っ、」
乱暴な温度が、唇に重なった。
とたんに頭が真っ白になる。
溢れ落ちてきそうな心臓の音は確かに自分のものなのに、望んでなかったものがひとつ。
「うーわ、またやってるよ」
「さすがだね、オオカミ」
「ヒューヒュー!」
「…っ」
こんなのは、ちがう。
欲しかったのは、こんなのじゃない。
呆然とするしかないわたしの横で、いつのまにか離れていた新谷くんが落ちたカバンを拾う。
「こうやって、たまには彼方に色仕掛けでもしてみれば?」
…なんで。
「キスなんてどうってことないんだから」
やめてよ。