*

*



「沙葉ー!サナちゃん来たぞー」

「はーい、今いくー!」



いつものように呼ばれたお父さんの声に、パタパタと足音を鳴らしながら玄関へ向かう。


制服はアイロンをかけた。

蝶ネクタイも真っ直ぐにした。

新しいリップも塗った。




「おはよう、サナちゃん」



今日は、気分がいい。








「あれ、なんか沙葉、今日いつもより可愛い」

「えっ」

「あ、唇の血色がいいんだ、リップでしょ」



さすがはサナちゃん、大正解。

なんでもお見通しだ。



「なになにー?可愛く見せたい相手でもいるの?」

「き、気分だっただけだよ」

「ふーん?」


コクコクとひとりでに頷くサナちゃんの微笑みは、もうぜんぶ見透かしている気さえしてくる。