そんなことを考え出す頭を振り切って、いってらっしゃいと新谷くんに投げかける。

すると、教室を出ようとしていた足が反対方向を向いて、またわたしのとこまで歩いてきた。




「っ…にゃ、にゃにふるの」


目の前まで来ると、突然、片頬をつままれて。

見上げると、真剣な眼差しがこっちを見ている。


すぐに手はハラリと離れ、新谷くんの瞳に真正面からわたしが映り込んだ。



「沙葉は、どーでもよくないよ」


「……な、に……それ…」


「べつに……ただ言いたくなっただけ」



ぽかんとするわたしをよそに、じゃあな、と新谷くんが今度こそ教室から出ていく。

とたんに静けさが増したその場で、わたしの心音だけが相反するように大きくなっていって。



……だ、だめだ、最近、新谷くんといすぎたんだ。

なんか、かっこよさに羽振りがかかってる気がするし、近い距離にあわてちゃうし。

うん、落ちつこう、わたし。


ふぅー、と息を吐く。



………

………


『沙葉は、どーでもよくないよ』



…なにそれ、ほんとになに。

どういう意味?




「あーーー」


…だめだ。ぜんぜんだめ。


まだ脈打っている胸のあたりを拳で押さえる。

……おかしい。前まではこんなんじゃなかった。




少しずつ、でも確実に、新谷くんのことで埋めつくされていく頭を、自分が自分じゃないような気がして端から追いやる。

それでも、答えに結びつきそうでつかないこの戸惑いが、わたしのなかでずっと留まっていた。