「前に、お母さんを亡くしたって言ってたよな」

「…なに、急に」


「それでも家族はいるだろ」



家族?

なんで、そんな話…



「いる、けど…」


「だろうな」


「え?」


「愛されて育ちましたって顔してるよな、沙葉は。俺なんかとはちがう。毎日笑って、楽しくて、好きなやつもいて」



言っている言葉の意図がわからず、ただただ視線が下がる。

どういうことか聞こうとしたその時、新谷くんが静かに口を開いた。






「俺には、ニセモノの家しかなかった」






瞬間、揺蕩う空気さえも新谷くんをさらっていきそうな気がするほど、ひどく悲痛な顔がわたしを捉えた。