「おはよう」


しばらくして、頭を抱えていた思考は右側からの聞き慣れた声でシャットアウトされた。



「あ、彼方くん、おはよう……て、え?」


挨拶だけして通り過ぎていくはずだった彼方くんの動きが止まる。いや、正確には、私が止めた。




「どうしたの、その傷……」



唇の端っこに丸くなったあざ。

どこからどうみても、それは、殴られたような傷。



「あー、ちょっと、ね…」


言いにくそうに目を逸らす彼方くん。



誰かにやられたのかな。
いや、でも、彼方くんは殴られるような人じゃない。


大丈夫だからと小さく呟く彼方くんにどう声をかけたらいいかわからずにいると、視界の先で強引に彼方くんを振り向かせた新谷くんが目に入った。



「……おまえ、」