「沙葉」

「なに」

「チョコも、どーも」

「う、うん」



なんなの、なんでこんなにお礼言ってくるの。
いつもは言わない新谷くんだから余計に困惑する。


もう帰っていいかな、と今度こそ歩みだすと、もう何度目かというように再びつかまれる腕。




「沙葉」

「今度はなに」


「なんでこっち向かねーの?」

「っ」



瞬きの間に強制的に振り向かされた身体。

思ったより新谷くんとの距離が近くて思わず膝からしゃがみこんでしまいそうになる。




「ひとつ言い忘れてたんだけど、」

「え?」


視線をあげると大きな腕がわたしの頭上へと移動した。





「可愛げないとか言うな」


「…は、」


「かわいーよ、沙葉は」



頭を包まれた手のひらと一緒に喉がゆっくり上下する。


「っ」

胡散臭いニコニコ笑顔じゃない。

綺麗な弧を描くように落とされた微笑みは、その日の夜、わたしを眠れなくするくらいには優しいものだった。