「顔はまあまあか」

「え?」

「どーでもいいけど」

「……あの、」

「あー、ちょっと待って」



わたしの声を遮った新谷くんがスマホの通知音に眉を寄せる。


なんだろう。

なんだか妙な沈黙に包まれる。



新谷くんのいい噂は聞かない。
毎日、ちがう女子といかがわしいことをしてるオオカミだとか、気分で捨てられるとか、そういうのしか耳に入ってこない。

だから、わたしは、すぐにでもこの場から逃げたかった。




「すみませんけど」

「だから待てって」



鬱陶しそうな声色でそう返され、わたしも眉を寄せる。


待てって言われても、新谷くんに用はないんだけどな。

そう思いながら後ろにいく視線。



ゆるく腰掛けられた、新谷くんの背もたれになってる、それ。

…そう、わたしが用があるのは、イスに掛けたまま忘れていたブレザー。



そもそもなんでこのクラスにいるの?
新谷くんは2つ隣のクラスだし、関わったこともない。わたしのことだって知らないはずなのに、よりによってどうしてその席に座ってるの。

いろんな疑問が浮かんでくるけど、このままぐるぐる考えてたって仕方ない。