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いやな予感はした。




「ちょっと遅いんじゃねーの?」


「…え?」



春休みに入る直前の3月下旬。

放課後、わたしのクラスで、窓際の前から2番目の席に座って気だるそうにこっちを見上げてきたのは、



「俺は早く帰りたいんだけどねぇ」



この学校に知らない人はおそらくいないだろう、人気者の新谷くんだった。





もう一度言うけど、いやな予感はしたんだよ?

だけど、素通りするわけにもいかず、忘れ物を取りに来たわたしは教室に入るしかないわけで。






まさか新谷くんから話しかけられると思ってなかったから、動揺して頭にハテナが浮かびまくる。


…えっと、新谷くん、なんて言ったっけ?

遅いとか……、早く帰りたい、とか…。

ていうか、そもそも、知り合いかのように話しかけてくるけど、一度も話したことはないし。




「…あの、」

「まぁ、来たならさっさと行こうよ」



……どこに?


あまりにまっすぐな視線を向けられ、もしかして後ろに誰かいる? と思って振り返ってみるけど、わたしだけなんだから、やっぱり新谷くんの話し相手はわたしらしい。