前例ない病気。

治療もリハビリも進めるが効果が見当たらない。

「脳の研究で権威のある海外での病院で治療も検討した方が…」

お医者さんに言われるがとりあえずまだ国内で治療を続ける事とした。

ただひたすら【ま】を聞いた事もした。

気が狂いそうになった。

「歌だとどうかな?」

「うーん。歌の方が少し良いかも」

理解出来ないが音に乗せてだとまだ耳に届く気がした。

中学に入り、理不尽な暴力を受けて倒れたりもしたが他の文字を失う事もなかった。

大輔を含め何人かに自分の病気の事を話したら誰が広めたのかわからないがいつの間にかほとんどの人が知っていて

「マジで松本全くマが聞こえません」

「はい、聞こえない無視ー!」

「つか、本当は聞こえてんのに聞こえてないふりしてんだろ?」

などとからかわれる事が多々起こるようになった。

そして2回目は高校の体育祭リレーでの後、目が覚めると【おを】を失っていた。

初めの一週間は学校休んだりと寝てる日々が多かったので気づかなかった。

ただ、学校に行くと朝のおはようが言えなくなり、美味しいも言えなくなり、遅いって言われてもわからないし、大友君や大橋さんの名前が言えなくなった事で認めたくないけど確信し、

「ねぇ、これなんて読むの?」

おを指さして親に聞く僕は震えと涙が止まらなくなった。

ケガが文字を失うトリガーと関係ない以上歳を重ねると失うのか精神的に何かが原因なのかとか色々考えても調べてもわからないし、知ろうとすればする程怖くて怖くて。

とてもじゃないけど僕の人生はこの先どうなるんだろう…