僕、松本拓郎27才は広島に帰省し、同じく帰省した大輔を迎えに行った。

「おーい!準備出来た?」

「ごめん、もうちょっと待ってー」

「タクシー待たせてるから早くしてー」

そう言うと玄関のドアから息子君を抱っこした大輔のお兄さんの圭祐さんが現れた。

「よう拓郎君久しぶり!」

「久しぶりです!」

「言葉聞こえるようになったんだってね」

「はい、おかげ様で。毎日治療受けながら亜依子の歌を聞いてたらいつの間にか」

照れながら答えた僕に圭祐さんは良かったねと肩をポンポンと叩いてくれた。

「今度サービスするからウチの店来てよ」

「はい、ぜひ」

圭祐さんはお好み焼き屋を経営してる。

「はぁはぁ‥すまん、お待たせほんじゃ行こうや」

息が少し切れててスーツのズボンからシャツが出ててる大輔にクスリと笑い、待たせてるタクシーに乗り込んだ。

「亜依子は?」

「高校の同級生達と一緒に行くみたい」

「ほうか」

お互い口数少ないが居心地良い時間が過ぎる。

「言葉」

「ん?」

「言葉、治って良かったの」

数年前、海外に飛び立ち大きな病院でリハビリ治療の日々の中。

母親から渡された日本から届いたスリーアローズの歌

「矢印……」

亜依子が歌う歌は凄い聞き心地が良くて言葉のワンフレーズワンフレーズが体にスーッと入ってくるように感じた。

「なんか、わかるかも」

ずっと聞いてると何が言いたいか徐々に理解してきた。

矢印以外にも届く歌。

『月が輝く夜』

『諦めた夢』

『理不尽な痛み』

『サヨナラのクラクション』

僕が昔書いた詩を剛が作曲し大輔がリズムを取り亜依子が歌ってくれてる。

僕は聞きながら嬉しくて泣いていた。

『サドルをフルスイング』

『冬支度前のリス子』

『日本の夜明けぜよ』

ふざけて書いた詩もちゃんと歌になっていて母と大笑いした。

それからスリアロの歌を聞かない日はなかった。

それに伴い病院でリハビリ治療を繰り返す中、喋れはしないが見る方もなんとか理解が出来るようになってきた。

「なぁ、またボーカルとして歌いたいとは思わんのんか?」

大輔がタクシーの中で聞いて来た。