「ついにここまで来たんだなぁ」

歩いていると剛がしみじみと言った。

今日は年末間近のスペシャルの歌番組。

司会者は大物お笑いコンビ、ニューオールドの二人。

子供の頃からニューオールドのコント番組を見てる私達には世代ど真ん中の人達。

「絶対終わった後にサインと写真撮ってもらおう!」

大輔はそう言ってた。

剛は他の控室に居るアイドル達が気になって仕方ないようだった。

「やべぇ、わし緊張してきた」

「やめろ、そう言うと僕にも緊張が移るだろ」

「大の男二人が狼狽えてどうするしっかりしろよ男共!」

私はバチコン尻を叩いた。

「いてっ!」

「流石メンタル最強女よ!緊張せんのん?もうすぐ時間や」

「緊張よりも楽しみが勝ってますから!」

笑顔で答え、鼻歌混じりにスキップした。

その姿にスタッフの子が私に話しかけてきた。

「めちゃくちゃ上機嫌ですね」

「ふふふ!もうすぐ彼氏が日本に帰って来るのよー!」

笑顔で教えた。

「次、入場です」

スタッフさんに裏で待機の指示を受け待っているとニューオールドの古田(ふるた•ツッコミ担当)の声が聞こえた。

「えー、次に登場するバンドの紹介ですね。今年の春にメジャーデビューし、そのデビューシングル『矢印』が瞬く間に大ヒット。その後『矢印』含んだ1stアルバム『天下一舞踏会』もミリオンセラーと今年の顔となりました。それでは登場していただきましょう、3-Arrowsです!」

ワーッと歓声と拍手が上がり私達はゆっくりと歩き出した。

「ふふふ、母さんテレビ見て!大輔の歩き方変!」

家では大輔の兄の圭祐とその家族がテレビを見ていた。

「母さん!見て!ベースの剛でた!カッコいい!」

12才になる少年は剛からもらったサイン入りのベースを首から下げテレビの前で興奮していた。

「あらほんとね。今日はゲンコツはせずにきっと空から立派になってってお父さんも喜んで言ってるわね」

今まで出演した番組は歌の披露だけでトーク番組等には出てなかった為、放送されたこの日、人気ロックバンドの彼らが初めて番組でトークすると日本中の人達がテレビに釘付けとなっていた。

また放送終了後、ニューオールドと亜依子のトークは大きな反響を生み世間を賑わせた。