徐々にオリジナル曲も作成し、色々イベントもこなすようになったが相変わらずデビューへの話しは来ない

「拓郎と何が違うんだろ?」

不意に漏らす弱音。

世間に出てる女性シンガーはレベルが私と数段違う。

月とすっぽんどころか月とすっぽんぽんだ。

それでもこの世界で音楽で戦うと決意した。

それでも生きていくと覚悟を決めた。

ただ…

(たくろう……会いたいよ…限界かも…)

結果が出ない日々からメンタルが弱くなってきていた。

スタジオで繰り返し繰り返し練習するも悪徳クソ狸の言うように上手には出来るが手ごたえは感じられない。

「上手く歌う事だけに拘り過ぎてんじゃない?」

「うーん」

剛に言われた言葉に悩んでるとスタジオハウスのオーナーがガチャっと中に入ってきた。

ニコニコしながらパイプ椅子に腰をかけた。

「どうやら行き詰まってるようだね」

そう言うオーナーに剛も大輔も苦笑いをする。

私は相変わらずうーんと唸っていた。

「拓郎君は上手く歌おうとはしなかったよ」

オーナーの言葉に余計に悩む。

「そもそも拓郎君と亜依子ちゃんは声の質が全く違う。彼が歌う歌を彼のように歌った所で彼のようには歌えない」

そうは言っても拓郎は情熱的に心を込めて歌ってたから…

「僕には不思議な感性があってね。人を色で見る事が出来るんだ。普段の拓郎君を色で表すと彼は白なんだ。何にでも染まってしまう純真無垢な真っ白」

オーナーの話す声に私達は耳を傾けた。