それから次に私が松本家を訪れたのは1ヶ月後。

松本家のチャイムを押したらお父さんが出てきた。

「こんにちは!拓郎君居ます?」

「ああ、実は…落ち着いて聞いて欲しい」

拓郎は母親と一緒に海外に治療に飛び立ったと聞かされた。

しかもいつ日本に帰ってくるかはわからない。

それを聞き突然の別れに

(やばい、流石にこれは私でも無理だ…)

立ちくらみが起こり倒れそうになる私にお父さんが

「大丈夫?」

体を支えてくれた。

「あ、はい、すみません」

「良かったらもう少し話しあるから上がって」

そう言われ中に入り食卓テーブルの椅子に座った私にお父さんはお茶を出してくれた。

「ありがとうございます」

そして私の顔を見ながらゆっくりお父さんは拓郎の体調の事を話してくれた。

高校在学中から海外への権威のある病院をいくつかピックアップしそこでの治療を検討してた事。

ただ高校を卒業したいと言う拓郎の気持ちを尊重し高校を卒業まで待ち、それからも日本に居たいと言う本人の意思を尊重して様子を伺っていた事。

「もう遅いぐらいなんだけど、私達家族もこれ以上酷くなる事が怖くてね。…これ君に拓郎から渡してくれと言われてね」

そう言われ渡されたのは拓郎からの手紙だった。

文字を失ってる拓郎の手紙は言葉選びが不細工だがわかる事は治るまで戻らない事。

「うぅ…ぐす…うぅ」

悲しみから涙が止まらない。

「ごめんね、君に渡す前に私も一度内容を確認する為、読まさせてもらったんだ」

申し訳ない表情でお父さんは続けた。

「手紙から別れたくない気持ちと別れなければならない気持ちが葛藤してるように見えた。本来なら亜依子ちゃん本人の意志を尊重して決断をしてもらうのが1番なんだろうけど私の率直な意見はあなたと拓郎に将来結婚してもらいたいと思ってます」

私はその言葉に涙を止める事が出来ない。

「恋は宇宙的な活力である!……この言葉知ってる?」

「う…うぅ…ぐ…ぐすっ…夏目漱石の残した言葉です」

「そう、よく知ってるね!拓郎は必ず治して帰ってくるから。君の隣に一緒に居れるよう前向きに旅立ったから」

お父さんといっぱい話しをしお礼を言って帰路についた。

帰る道中、雨が降る中、傘をさして歩くも私はいっぱい泣いた。

泣いた、泣いた、泣いた。

降りしきる雨の音で私の泣き声がかき消される事で人目を気にする事なく泣いた。