私がケーキを食べ終わるのを確認すると父は尋ねてきた。

「お世話になった方の名前と住所は聞いてきたか?」

「えっと、橋本さん」

名前と住所をメモした紙を父に渡した。

「疲れてるかもしれないが出かけるぞ」

そう言って近くのショッピングモールへ行き

「これで良いか?」

「うん」

マドレーヌの入った菓子折りを購入して配達依頼を出した。

「ちなみに塾も合唱団も辞めさせるからな」

「え!?」

「こんな事があったんだ当たり前だろ。住所見たが遠すぎてありえんわ」

「あ、でもお金。電車賃借りて…」

「じゃあ塾に夕方に返しに持っていくぞ」

居るかどうかわからないが物凄い内に秘めて怒ってる父の前に私はただただ黙っているしかなかった。

「昨日、亜依子が帰って来なくてどれだけ心配したかわかるか?」

「はい…」

「夜遅くなっても帰って来ないから真もお姉ちゃんこのまま帰って来なかったらどうしようって心配してたんだぞ」

「はい…」

父が言う事は正論で、あの時同じ塾の友達が居なかったら、おじいさん家に泊まれてなかったら、今回たまたま運が良かっただけである事を反論出来ないよう詰められた。

淡々と喋る父が怖かった。

塾に着き駐車場ではなく道端にハザードランプを付けて停めた。

「行くぞ、すぐ帰るからな。名前わかるのか?」

「えっと、橋本たく君だと」

はっきりと彼の口から彼の名前を聞いたわけではなかったので自信無くこたえた。

「あ!居た!」

たく君は少し眠そうな顔をしながら教室の机に着席していた。

「ごめん、今日はありがとう」

「え?返すの早くない?」

「ありがとう、娘がご迷惑をおかけして」

「あ、いえいえ」

父と一緒に足速に挨拶して別れた。

「良い子そうだな、仲良かったのか?」

帰りの車内で私にそう問いかける父に

「うん」

私は嘘をついた。

とても昨日初めて話した男の子だと口が裂けても言えなかった。