ねぇ待ってそれ聞いてないっ!




そして、1歩踏み出したところで捕まった。もはや駆け出していない。


あまりにもあっさりと終わる逃亡劇に怒りたくなる。


っ、なんで私はもっと俊敏に動けないんだ!


なんでコウくんは反射神経がいいんだ!


……なんで、失恋した私を放っておいてくれないんだ。


逃がさないとでも言っているかのように。


好きでもない私を腕の中に強く閉じ込めてしまうのはなんでなの……?


瞳を濡らしながらも抗議をしようと見上げれば、なにかを恐れるように瞳を揺らすコウくんと目が合って。


……反射的にコウくんの胸に顔をうずめると、まるで私に縋りつくようにぎゅっと私を囲む腕に力が込められる。


それは小さい頃のコウくんを思い出させる不安定さで。


抵抗する気なんてすぐになくなった。


「……どうして泣いてるの」


呟くように尋ねるコウくんに鋭さや冷たさは微塵も存在しない。


あるのは恐れのみで、らしくないコウくんに私はまた愛おしさを募らせる。