「馬鹿で阿呆で女子力の欠片もないけど、一緒にいると張っていた気が緩む」
「それは……馬鹿でよかった」
私は……この人の傍にいたい。
田中くんに少しでも笑ってほしい。
この手を離したくない。
でも……そろそろお別れだ。
「ここでいいよ」
田中くんは確か左に曲がるはず。これ以上遠回りしてもらうのは悪い。
「危ないから家まで送る」
「でも」
「お願いだから、今日だけは送らせて」
「……うん」
襲われかけたせいかもしれないけれど、普段よりも甘やかしてくれることがくすぐったくて頬が緩んでしまう。
「喜久本、あのさ」
「ん?」
「明日の放課後空いてる?」
「え、う、うん」
「じゃ、話がある」
突然のお誘いに胸が高鳴ったけれど、期待しちゃダメだ。
田中くんは百瀬さんが好きで、ふたりは両想い。私が入る隙間なんてない。
「約束」
見上げた先の田中くんは月光を浴びていて、淡い光りを放っているように見える。
その姿はどこか危険を感じるような美しさだった。



