形容し難い感情がどろっと押し寄せてくる。胸が痛い。
田中くんが隠し事をしていたのも嫌だけど、この光景を見ているのが嫌だ。
田中くんが百瀬茅織をすごく大事にしているのがひしひしと伝わってくる。
『田中くんの好きな人ってどんな人!』
『頼りないダメ人間』
『見た目は?』
『かわいい』
ああ、そっか……そういうことだったんだ。
田中くんの好きな人は百瀬茅織だったんだ。
報われないって言っていたけれど、両想いなんだ。田中くんの恋は叶うんだ。
応援しないとなのに……
「……凪沙ちゃん?」
ゆた先輩の声が聞こえるけれど顔を上げることができない。
胸が苦しくて、涙が込み上げてくる。
もう、ここにはいたくない。
「……帰る」
涙が流れる前に鞄に濡れた制服をつっこんで、教室のドアに手をかける。
「喜久本、」
田中くんが私を呼ぶ声に一瞬静止したけれど、振り返ることなく教室を出た。
静かで暗くて寂しい夜の廊下を歩きながら、ついにぽろりと落ちた涙を拭う。
「待って」



