たすけて!田中くん



私を取り巻く世界の音が変わった。

鈍く低い音に支配され、冷たい感覚が全身を覆う。


「ぶ、はっ!」

プールから顔を出し、待ち望んだように酸素を一気に取り込む。

……寒い、苦しい。なにが悲しくて、晩秋の夜にプールに入らなくちゃいけないの!


「平気か?」

「平気なわけないっ!」


勝手に掴まれてプールに落とされ、プールサイドに上がったものの苔まみれ。

最悪すぎる。制服はすっかり水分を吸込み、鉛を背負ったように重たい。


私を掴んできたさっきの男をちらりと見やると、既に伸されている。



「お前は、何してんだよ」

「へ」

「マジでふざけんじゃねぇよ」

「え!?

なに、なんなのこの人。なんでいきなり怒ってんの?

私が捕まったから怒ってるの? だけどあのときは百瀬さんを助けるために囮になるしかなかった。

前髪で顔が隠れていてよく見えないけれど、この人誰だろう。


「つーか……お前、苔やばいな」

「いや、私だってこうなりたかったわけじゃないし……」

この苔まみれのプールに落ちたのは、さっきの男のせいだ。